宇宙のニュースで見る2022年
今年も多くのロケットが打ち上げられ、衛星を利用した通信サービスが世界規模で展開されるなど、宇宙との距離がより縮まった1年となりました。また、民間で初となる月着陸船が打ち上げられ、宇宙ビジネスに参入する民間企業がより増加した年でもありました。
2022年も残すところあとわずか。宇宙ビジネス・有人宇宙飛行関連のイベントとともに、より私たちの身近になった宇宙をニュースを通して振り返ってみましょう。
宇宙ビジネス
4/8 民間主導ISS滞在ミッション「Ax-1」打上げ
アクシオム・ミッション1(Ax-1)はアメリカの民間宇宙企業Axiom Spaceが企画した国際宇宙ステーション(ISS)滞在のミッションです。
有人宇宙飛行ミッションとしては初めてとなる民間人のクルーのみで構成された宇宙飛行であり、司令官で元NASAの宇宙飛行士のマイケル・ロペス・アレグリア氏(アメリカ)、起業家のラリー・コナー氏(アメリカ)、投資家・慈善家のエイタン・スティペ氏(イスラエル)とマーク・パシー氏(カナダ)の4名がISSに滞在しました。スティペ氏はイスラエル人としては初の宇宙飛行士です。
この宇宙飛行へ行くための料金は一人当たりおよそ5500万ドル(約72億円)とされます。打上げ前には乗組員に対しNASAによる審査と医療資格試験、さらにNASAの施設で10カ月にわたり宇宙船の操作や健康指導、安全講習などの約700時間の訓練が行われました。
打上げは4月8日に行われ、ロケットにはSpaceXが開発した再利用可能な「Falcon9(ファルコン9)」が使用されました。Falcon9による打上げは5回目となります。当日は乗組員が搭乗した宇宙船「Crew Dragon Endeavour(クルードラゴン エンデバー)」がFalcon9から分離するまで中継が行われました。
打上げの様子-SpaceX YouTubeチャンネル
その後、打上げから約1日かけて、クルードラゴンはISSに到着し、無事ドッキングされました。
Ax-1は「研究を重視したミッション」とされ、4名の乗組員はISSに滞在している期間、1日のうち約 14時間を科学研究に費やしました。およそ25の研究調査が行われましたが、その中にはJAMSSと東京理科大学・東京農工大学が共同研究で開発した、空気浄化媒装置の実験も含まれています。
4/25 民間主導ISS滞在ミッション「Ax-1」Crew Dragonにて帰還
Ax-1の乗組員は当初およそ8日間の滞在を予定していましたが、天候不良の影響で帰還が延期となり、およそ15日間の滞在となりました。この間の飛行距離は630マイル(およそ1000万km)、地球およそ240周分とされます。
4 月25日午後1時6分(東部標準時 日本時間4月26日)にAx-1の乗組員を乗せた「Crew Dragon Endeavour」はフロリダ沖に着水。乗務員全員が無事に帰還しミッションを完遂しました。
帰還後、司令官を務めたマイケル・ロペス・アレグリア氏は「有人宇宙飛行の新時代が正式に幕を開けた」とコメントしています。『商用宇宙船を使用した、民間人のみによる宇宙飛行が成功』という意味でも、Ax-1は大きな話題となりました。
Axiom Spaceは現在4回のISSへの有人宇宙飛行を企画しています。次に行われるアクシオム・ミッション 2(Ax-2)は2023年打上げで、12日間の滞在が予定されています。
また、Axiom Spaceは将来的に民間宇宙ステーション(Axiom Station)の構築を目標に掲げており、4回のアクシオム・ミッションでその基礎を築くとしています。
12/11 世界初 民間の月着陸船「HAKUTO-R」打ち上げ
打上げの様子-SpaceX YouTubeチャンネル
日本の宇宙ベンチャー企業ispaceが開発した月着陸船「HAKUTO-R」が、米国フロリダ州のケープカナベラル空軍基地から打ち上げられました。
HAKUTO-R は民間主導では初となる月着陸船の月面到達を目指しています。12月現在、月への軌道投入まで進んでおり、順調に進行した場合は2023年4月ごろに月面着陸の予定です。
HAKUTO-Rは7つのペイロード(搭載物)を輸送しています。
■ HAKUTO-Rのコーポレートパートナーである日本特殊陶業株式会社の固体電池
■ UAEドバイの政府宇宙機関であるMBRSCの月面探査ローバーRashid
■ JAXAの変形型月面ロボット
■ カナダ宇宙庁によるLEAPの一つに採択されたMCSS社のAIのフライトコンピューター
■ カナダ宇宙庁によるLEAPの一つに採択されたCanadensys社のカメラ
■ HAKUTOのクラウドファンディング支援者のお名前を刻印したパネル
■ HAKUTOの応援歌であるサカナクションの「SORATO」の楽曲音源を収録したミュージックディスク
――ispace公式サイトNews「ispace、民間月面探査プログラム「HAKUTO-R」ミッション1打ち上げ予定日を 2022年12月11日に更新」より
ispaceは2010年に設立された宇宙スタートアップ企業で「人類の生活圏を宇宙に広げ、持続性のある世界を目指す」(※ispace公式サイトより)としています。この月面着陸ミッションの次には、2024年に月面探査のミッション、水資源を中心とした月の情報探索及び地球-月間の輸送プラットフォームの構築(年月未定)も行われる予定です。
12/9 前澤友作氏 2023年打上げ予定の月周回旅行メンバー8人発表
月周回プロジェクトdearMoon クルー発表-前澤友作氏 YouTubeチャンネル
2021年に日本の民間人として初めてISSの滞在を行った前澤友作氏が、2023年打ち上げの月周回旅行のプロジェクト「dear moon」に同行するメンバーを発表しました。
メンバーは著名なミュージシャンであるスティーブ・アオキ氏(アメリカ)をはじめ、写真家、ライター、俳優など主に芸術分野で活躍する8人が選ばれています。
月周回飛行はSpaceX社の大型ロケット「Starship(スターシップ)」を利用し、ケネディ宇宙センターから打ち上げ後、約6日かけて月の周りを周回し地球まで戻る予定です。
「dear moon」の最新情報は前澤氏のTwitterなどからも発信されています。
有人宇宙飛行(非商業)
6/1 野口聡一氏 JAXA退職・宇宙飛行士引退
野口聡一氏引退会見-JAXA YouTubeチャンネル
これまで3度の宇宙飛行を行った野口聡一宇宙飛行士が、JAXAから退職および宇宙飛行士引退を発表しました。
野口氏は2005年、2009年~2010年、2020年~2021年の宇宙飛行に参加、通算で335日となり、日本人最長を記録しました。
引退の記者会見で野口氏は「3回目のミッションを終えたころから、そろそろ後進の人たち、これから新規選抜で宇宙飛行士になる人たちに道を譲りたい、と考えるようになった」と述べています。
野口氏は自身のYouTubeチャンネルでISSでの生活の様子を配信するなど、積極的に宇宙の魅力を発信し続けていましたが、引退記者会見でも「今後は一民間人の立場で宇宙を盛り上げるための協力をしていきたい」と話し、これからもその姿勢は変わらないことを示しました。
JAXAでは現在、宇宙飛行士選抜試験が行われており、12月現在、第二次選抜で10名の合格者が発表されています。その後、2023年1月・2月の第三次選抜を経て新たな宇宙飛行士が決定となります。
近年、宇宙飛行士になる資格の条件緩和が行われたこともあり、将来さらに幅広い人材が宇宙に行くことが予想されます。
6/5【中国有人宇宙プロジェクト】神舟14号打上げ
「中国有人宇宙プロジェクト」は中国が独自に行う宇宙事業です。現在宇宙ステーション「天宮」の建設を進めており、2021年4月から1年半で10回以上打上げが行われています。
6月5日には11回目となる打上げが行われ、陳冬(ちん・とう)氏、劉洋(りゅう・よう)氏、蔡旭哲(さい・きょくてつ)の3名が宇宙船「神舟14号」に搭乗、ロケット「長征2号」が中国北部甘粛省の酒泉衛星発射センターから発射されました。
「天宮」はT字型の宇宙ステーションで、管理・制御モジュールと2つの実験モジュールで構成されています。「神舟14号」は「天宮」の建設の最初の有人ミッションで、3名の乗組員は半年間滞在して設備の設置および拡張を行います。
10/5 若田光一宇宙飛行士が5回目となるISS滞在
SpaceX Crew-5ミッションにおいて、若田光一宇宙飛行士が5回目の宇宙滞在を行っています。
若田氏が乗組員として参加しているSpaceX Crew-5ミッションは、10月5日(日本時間10月6日)にケネディ宇宙センターから打ち上げが行われました。若田氏以外のメンバーは船長のニコール・オーナプー・マン氏(アメリカ)、ジョシュ・カサダ氏(アメリカ)、アンナ・キキナ氏(ロシア)の4名で構成されています。若田氏以外は初の宇宙飛行です。
このミッションではCrew-4ミッションとのメンバー交代と科学技術の研究が主目的とされます。重力が心肺系に及ぼす影響や光ファイバーケーブルの品質向上、宇宙での作物栽培など様々な分野の実験が行われる予定です。
ISSで行われる実験の内容や宇宙飛行士の活動の様子はブログなどで公開されており、若田氏自身もTwitterなどで情報発信を積極的に行っております。
若田氏を含むCrew-5ミッションのメンバーはISSに約6カ月滞在を行う予定です。
11/16【アルテミス計画(アルテミス1)】SLSロケット打ち上げ、日本の小型探査機が相乗り
NASA主導による月探索のミッション「アルテミス計画」、その第一段階である「アルテミス1」の打上げが行われました。
アルテミス1では新型のロケットSLS (Space Launch System)に搭載された宇宙船「Orion(オリオンまたはオライオン)」の無人月周回の飛行テストが実施されます。
また、打ち上げられたSLSロケットには10機もの小型探索機が搭載されていました。そのうち2台が日本の小型探査機です。一つが月面着陸を目指した無人探索機「OMOTENASHI(オモテナシ)」(JAXA開発)、もう一つが太陽・地球・月圏の科学探査を行う「EQUULEUS(エクレウス)」(JAXAと東京大が共同開発)です。
2機の探索機は発射後Orionの放出と同時にSLSロケットから分離し、軌道に入りました。「EQUULEUS」は11月に初期の運用フェーズまで無事終了し、月の裏側を撮影するなどの活動も公式Twitterより発信されています。
「OMOTENASHI」はロケットから分離後通信が安定せず、近月点(月に最も近づく点)を通過したことで月面着陸は断念したものの、JAXAは引き続きOMOTENASHIの復旧作業に取り組んでおり、地球磁気圏外での放射線環境測定などを目指すとしています。
11/18 【アルテミス計画】月探査新宇宙ステーション「Gateway」に日本人参加決まる
「アルテミス計画」のプロジェクトの一つ「Gateway」の建設計画及び滞在する宇宙飛行士に日本が正式に参加することが決まりました。
「Gateway」とは月軌道上に建設される有人宇宙ステーションです。月を周回し、宇宙船のドッキングボードや月で活動する宇宙飛行士の生活拠点となる予定です。
日本は「Gateway」の宇宙飛行士の参加の他、JAXAからアルテミス計画における居住・作業・研究するための設備スペースや、居住モジュール内の環境制御・生命維持システムやバッテリーなどのシステムを提供します。
また、この決定に合わせてISSの2030年までの運用延長に日本が参加することも決定されました。
11/29【中国有人宇宙プロジェクト】神舟15号打上げ
打上げの様子 – TVBS新聞網Youtube
6月に行われた「神舟14号」の打上げに続き、11月29日(日本時間30日)に酒泉衛星発射センターよりロケット「長征2号」および有人宇宙船「神舟15号」が発射されました。
乗組員は費俊竜(ひ・しゅんりゅう)氏、鄧清明(とう・せいめい)氏、張陸(ちょう・りく)氏の3名です。「神舟15号」は約1日後に宇宙ステーションに到着、ドッキングされました。
「天宮」には「神舟14号」の乗組員が滞在しており、「神舟15号」の到着後は宇宙ステーション内で合流を喜ぶ姿が報道されました。その後、「神舟14号」のメンバーが12月4日に地球に帰還しました。
また、この「神舟15号」の打上げによって、「天宮」は建設が最終段階に入り、2022年度中に完成するとしています。
現在運用されている宇宙ステーションはISS以外ではこの「天宮」のみです。「天宮」では今後は海外の宇宙飛行士の受け入れも行うと告知されています。
12/11 【アルテミス計画(アルテミス1)】宇宙船「Orion」が地球に帰還
11月16日にアルテミス計画にて打ち上げられた宇宙船「Orion」は無人月周回の飛行テストを終え、12月11日(日本時間12月12日)にメキシコ沖に着水しました。打ち上げから地球への25.5日、飛行距離は140万マイル(約200万キロ)の旅となりました。
着水した「Orion」はNASAと米国海軍などで構成された着陸回収チームによって海上から回収され、ケネディ宇宙センターへ輸送されます。
「Orion」は6人乗りの宇宙船として設計されています。今回の無人テストでは月への飛行中の人体への影響を調べるため、放射線センサーなど搭載したマネキン(通称ムニーキン・カンポス司令官)や、無重力インジケーターを装備したスヌーピーのぬいぐるみなどが搭乗しました。
また、「Orion」にも5つの加速度計、振動の記録装置といった多数の計器が搭載されており、打上げや着陸の衝撃テストや飛行中の加速度テストなどが行われます。
アルテミス1で収集されたデータは、次の有人飛行であるアルテミス2のプロジェクトに生かされます。
宇宙がより近く、身近に
9月 世界初の月保険提供
宇宙保険とは、宇宙におけるロケットや人工衛星の損害を補償する保険です。現在三井住友海上グループや損保ジャパン、東京海上日動グループなどがサービスの提供を行っています。
中でも注目を浴びたのが、ispaceの月探索機「HAKUTO-R」の打ち上げに提供された三井住友海上グループの「月保険」です。月面活動における保険提供は世界初となります。
ispaceのミッション1では、ロケット打ち上げからランダー(月着陸船)が月面に着陸し、通信の機能が正常に作動して地球とランダーとの間でデータ送受信が行われるまでに損害が発生した場合に保険金がispaceへ支払われます。ispaceが推進する月面輸送事業は、打ち上げ費用、ランダーの開発費用等、ミッションに必要とされるコストが比較的高額であり、将来的に持続安定的なミッションを継続して実現するためには、保険によるリスクへの手当が非常に重要となります。
――ispace公式サイトNews「ispaceが世界初の「月保険」の利用者に、三井住友海上と契約締結」より
今後は宇宙飛行士向けの商品など、宇宙活動における様々な保険が開発されると予想されます。
10月Starlink日本でサービス開始
StarlinkはSpaceXが提供する、衛星を利用した通信サービスです。およそ数千台の衛星を使い、高速かつ遅延の少ないインターネット接続を実現するとしています。
2022年現在、45カ国にサービスが提供されており、日本では10月から沖縄などの一部地域を除き全国で通信可能となっています。法人向けの「ビジネス」プランと一般向けの「レジデンシャル」プランがあり、「レジデンシャル」プランは月1万円ほどです。(初期費用としてアンテナなどのハードウェアコストが約7万円かかります)
Starlinkは、契約後に送られてくるアンテナを開けた場所に設置すると通信が可能になります。山岳地帯など、これまで電波の届きにくかった場所での通信も可能になり、災害などで地上の基地局などが使えないといったトラブルの際にも活躍することが期待されます。
10/22 HISが「宇宙船旅行」を販売へ
旅行会社のHISは、アメリカの宇宙ベンチャー企業Space Perspective社による宇宙旅行のチケットを年内に販売開始すると発表しました。
Space Perspectiveが提供する宇宙旅行はいわゆる「成層圏ツアー」です。ケネディ宇宙センターから気球を打ち上げ、数時間かけて上空30kmの成層圏に到達、その後しばらく高度を保ったまま飛行し、その後数時間かけて地上に向かって降下します。
ツアーの参加者は気球に取り付けられたカプセルのパノラマウィンドウから、地球と宇宙の光景を楽しめます。
高度30kmは飛行機が飛ぶ上空10kmの高くなるため、宇宙から見た地球の眺めに比較的近い景色を堪能できます。また、重力負荷や無重力状態が発生しないことから、ロケットに搭乗する際などに必要な重力トレーニングなど無しで誰でも参加可能なことが特徴です。
Space Perspective社によれば、料金は1 人あたり 125,000 ドルで、1 席 1,000ドルのデポジットがかかります。(合計およそ1700万円ほど)
まとめ
いかがでしたか? 民間人の宇宙飛行や通信サービスの展開、宇宙旅行の販売など、より宇宙を身近に感じさせた2022年。ご紹介したニュースをチェックしていると、来年度以降の打ち上げや新展開により期待が高まるかもしれません。
※1米ドル=130円で計算
※価格は全て2022年12月現在の情報