リモートセンシングとは?観測の仕組みや農業・自動車への活用例も
我々の生活にも実は深く関わっているリモートセンシング。しかし、具体的に何を指すのか、どういった形で役に立っているのかをご存知の方は少ないのではないでしょうか。 この記事では、リモートセンシングの定義や仕組みなどの基礎知識を分かりやすく説明します。さらに「環境」「農業」「自動車」の分野別にリモートセンシングの活用例についてもご紹介します。
リモートセンシングとは?
リモートセンシングとは、どのような技術を指すのでしょうか?まずは、リモートセンシングの意味や仕組みについてご紹介します。
触れずに温度や大きさなどの状態を調べること
リモートセンシングとは、センサー技術によって物体に触れずに、温度や大きさなどの状態を調べることを指します。センサーとは、光や温度、電磁波などを検知し、データ化することができる装置で、その用途に合わせてさまざまな種類が開発されています。
以下は、リモートセンシングの技術が取り入れられている機器や装置などの一例です。
- 気象衛星
- 魚群探知機
- サーモグラフィ
- 洋式トイレの便座の自動開閉、便器の自動洗浄システム
など
リモートセンシングの技術が活用されていて、その存在がよく知られているものとして、気象衛星が挙げられます。気象衛星から取得した気象データは、地上で観測した降水量や風向きなどの情報と組み合わせて天気予報に活用されます。
他には、接触せずに対象物の温度を検知できるサーモグラフィ、魚群の位置を検知できる魚群探知機といった装置にもリモートセンシング技術が取り入れられています。
リモートセンシングを活用する利点
リモートセンシング技術は、人による観測が難しい場所で活躍します。中でも、人工衛星によるリモートセンシングはその代表例であり、大きく以下の3つの利点が挙げられます。
- 一度で広範囲を観測できる
- 一定の周期で繰り返し観測できる
- 遠隔で観測できる
人工衛星は地上から数100km以上の上空を移動しており、一度に広範囲を観測することが可能です。大気や広範な地域を調査するときは、人工衛星からのリモートセンシングが活用されます。
また、人工衛星は地球を周回しているので、毎日同じ時間に同じ場所を観測するよう調整することができます。この特長を生かし、大気や地上の変化を的確に捉えることが求められる調査で活用されています。
そして最大の利点は、人がその場にいなくても遠隔操作により観測できることです。気象衛星「ひまわり」は、遠隔操作による観測の利点を生かし、これまで難しかった台風の観測を実現しました。実は、台風観測における課題は、台風が発生する海上に観測所を設けられないことでした。ひまわりからのリモートセンシングにより、台風の発生や規模を観測できるようになり、今や当たり前となっている進路予想も行えるようになったのです。
リモートセンシングの仕組み
リモートセンシングは、物体から反射・放射される電磁波をセンサーでキャッチすることでさまざまな情報を計測することができます。そもそも、物体は電磁波を反射、または吸収・透過する原理があり、物体の種類や状況に応じて電磁波の強さは異なります。センサーは、これらの電磁波の強さを定量的な情報に置き換えて読み取れるので、計測対象の状態を把握することができるのです。
さらに、リモートセンシングは観測の目的に応じて、計測する高度やセンサーを搭載する機器が異なります。以下は、目的や高度別にリモートセンシングの方法を示したイメージ図です。
上記のイメージ図のように、リモートセンシングは人工衛星の他にも、航空機やドローン、船舶などに搭載して活用されることがあります。
航空機でリモートセンシングを活用するときは、比較的解像度が高い撮影が可能になるため、従来は地理情報の収集や災害調査を主な目的としていました。近年では植物の生育のメカニズムを分析するための生育状況の計測といった、新たな活用のされ方も見られます。
また、ドローンによるリモートセンシングは、2010年代から活用の機会が増えています。その理由として、航空機よりも低い高度から、高い操作性でセンシング技術を活用できる点が挙げられます。農作物や建築物、災害地域などの状況を把握するために活用されています。
船舶からリモートセンシングを行うケースもあります。レーダーの反射を利用した方法が主流で、沿岸の侵食状況や波の高さなどの計測する目的で活用されています。
【分野別】リモートセンシングの活用例
リモートセンシングはさまざまな分野で活用されています。ここからは、環境・農業・自動車の3つの分野別に活用例をご紹介します。
環境|天気予報や地図作成
リモートセンシングは、環境分野の幅広い領域で活用されており、取得したデータは天気予報や地図作成に役立てられています。一度に広範囲を計測できて、かつ同時刻に同じ場所を計測できるため、大気や地表面などの情報を効率的に高い精度で把握したいときに活用されます。
<環境への活用例>
▼活用例
- ハザードマップの作成
- 台風の進路予測
▼これまでの課題
- 人が立ち入れない場所の観測が難しい
- 海上に観測所を設けられないので台風の観測が難しい
▼活用技術
- 衛星画像
- 温度センサー
- 雲の情報を検知するレーダー
近年、さまざまな自治体で設けられているハザードマップもリモートセンシングによるデータ収集によって作成できるようになりました。自然災害があった地域は人が立ち入れないことが多く、これまでは災害の状況を計測することが困難でした。リモートセンシングは、衛星から災害下の地域を観測できるようになり、災害対策の手段としても役立っています。
なお、ハザードマップはGIS(地理情報システム)が元となっています。GISとは、デジタルの地図上にさまざま情報が記録されたシステムの総称で、必要に応じて情報を呼び出し、ハザードマップのように目的に合わせた地図を作成することができます。ここに記録される情報もリモートセンシングの観測結果が用いられています。
農業|品質向上と業務効率化
リモートセンシングは農業分野にも活用されており、作物の品質向上や農作業の効率化に役立っています。人工衛星から農場の衛星画像を撮影することで、農作物の生育状況を日常的に把握できるようになり、その結果、農薬・肥料散布や収穫を適切なタイミングで実施しやすくなります。
<農業への活用例>
▼活用例
- 適切な収穫タイミングを見極められる
- 農薬散布のエリアやタイミングを適切に判斷できる
▼これまでの課題
- 農作物の生育状況を日々把握するのに時間がかかり難しい
- 農作物の異常をすぐに発見できない
▼活用技術
- 衛星画像
- 葉や土壌の成分を調べるための各種センサー
なお、リモートセンシングをはじめとした先端技術を駆使した農業形態をスマート農業と言います。スマート農業について詳しくは、「スマート農業とは?デメリットはある?目的別の導入事例を解説!」のページをご覧ください。
衛星画像とセンサーにより取得した情報を機械学習させることで、精度の高い収穫量の予測をできるようになります。高品質化、作業の高効率化を実現しつつ、不確実性が高い農業経営の安定化に役立つことも期待されています。
ちなみに、JAMSSではリモートセンシングにより取得したデータを基に、農作物の生育状況や適切な収穫時期などの情報をお知らせする「Digital Farming©」というサービスを提供しています。また、Digital Farming©の実績をもとに開発した営農支援アプリ「リモファーム(TM)」を提供しています。シンプルな操作感で、デジタルに不慣れな方でも利用しやすくなっています。
自動車|先進運転支援システムの実現
リモートセンシングは自動車にも活用され、先進運転支援システム(ADAS)の実現に役立てられています。ADASとは、自動車に搭載されたセンサーで検知した情報を基に、運転中の操作を支援するシステムを指します。リモートセンシングにより車両周辺の物体を検知することで、より安全で快適な運転ができるようになるのです。
<自動車への活用例>
▼活用例
- 車載カメラの画像から歩行者や標識を検知し、ドライバーに知らせることができる
- センサーで検知した物体の位置や速度を測定できる
▼これまでの課題
- 歩行者や対向車、その他の障害物などに気付けず事故が起きる
▼活用技術
- ADAS用カメラ(画像から必要な情報を取り出す)
- ADAS用レーダー(ミリ波レーダーの反射を検知する)
警視庁の統計*によると、2019年度の事故数は約38万件で、そのうち負傷者数は約46万人、死者数は約3,000人でした。ADASは、運転におけるリスクを減らし、交通事故による負傷・死傷を減らすことに期待されています。
なお、ADASは完全な自動運転を実現するわけではありません。上述の通り、あくまで部分的な自動化に過ぎず、ドライバーの運転を支援するシステムです。そのため、基本的な運転は全てドライバーが行います。
*出典:警視庁|統計表|年報
まとめ
リモートセンシングとは、対象に触れずにセンサーによって光や温度、距離、圧力などのさまざまな情報を検知・測定することです。従来は大気や地表面・海面などの状態を観測するために用いられることが一般的でした。しかし、近年では、農業や自動車などのさまざまな分野でリモートセンシングの技術が取り入れられており、活用方法の幅が広がっています。