要チェック! 2024年7月~12月期 宇宙開発イベントカレンダー
日本初の月面着陸で始まった2024年。7月にも3回目となるH3ロケットの打ち上げが見事成功しました。2024年後半も新しいロケットの打ち上げ、民間初の船外活動を実施するプロジェクトなど、注目の宇宙イベントが目白押しです。
※ 情報は9/25時点のものです。
ロケット打ち上げ(無人)
7/1 H3ロケット3号機打ち上げ(日本)
H3ロケット3号機打ち上げの様子 – JAXA公式YouTube
3回目となるH3ロケットの打ち上げが行われました。
H3ロケットは2024年から運用が開始された国内産の新型ロケットで、2001年から運用されてきたH-ⅡAロケットの後継機となります。2024年2月17日の2号機以来、約5か月ぶりの打ち上げとなり、2号機に続いて打ち上げを成功させました。
3号機にはペイロードとして「だいち4号」が搭載されました。「だいち4号」は「だいち2号」の後継機となる先進レーダ衛星で、取得されたデータは船舶の航行安全や災害時の被害状況の把握に利用される予定です。
レーダ衛星とは、地表にマイクロ波を照射し反射したマイクロ波で地表のデータを捉える衛星で、雲があっても夜間でも地表のデータを観測できるのが特徴です。主に船舶や地盤沈下、森林伐採の監視などに利用されます。
7/10 アリアン6ロケット打ち上げ(ヨーロッパ)
ニューグレン組み立ての様子 – ブルーオリジン公式YouTube
アリアン6(Ariane 6)は欧州宇宙機関(ESA)とアリアングループ(フランス)が開発を進める新型ロケットです。人工衛星を打ち上げるための使い捨てロケットで、2023年まで運用されていたアリアン5(Ariane 5)の後継機となります。
大きさはH3と同じ全長63mで、2 つのブースターを搭載したアリアン62(Ariane 62)と、4 つのブースターを搭載したアリアン64(Ariane 64)の2つのバージョンで運用される予定です。
アリアン6の大きな特徴は、異なる軌道に複数の衛星を投入できることです。また、搭載する人工衛星などの大きさや重さに応じて仕様を変えることができ、今回打ち上げられたアリアン62は全長56m、静止遷移軌道(GTO)に約4.5t、地球低軌道(LEO)に約10.3tのペイロードを投入することができます。もうひとつのバージョンであるアリアン64は、GTOに約11.5t、LEOに約21.6tのペイロードを打ち上げることができます。
初の打ち上げは7月9日(日本時間7月10日)に南米北部にあるフランス領ギアナ宇宙センターから行われました。
ロケットは発射56分後に2回目の2段目エンジン燃焼、発射1時間6分後にペイロードの軌道投入に成功しています。しかし3段階に分かれた飛行のうち2段階目で補助エンジンが停止。訓練として予定していた軌道を下げるための噴射ができないトラブルが発生しました。
8/3 小型SAR衛星「ストリクス」打ち上げ(日本)
小型SAR衛星を開発、運用するシンスペクティブ社(Synspective)による小型SAR(合成開口レーダ)衛星「ストリクス(StriX)」の打ち上げが行われました。
「StriX」は2020年から展開されている衛星で、名前はフクロウの学名に由来します。ミッション名も、「Owl For One, One For Owl」と名付けられました。重量100kg級と従来のSAR衛星の1/10程度、さらに製造コストも1/20に抑えられているのが特徴です。今回打ち上げられたのは5機目となります。
打ち上げは、ロケットラボ(Rocket Lab)社のエレクトロン・ロケットで8月3日の1時39分(日本時間)にニュージーランドのマヒア島にある発射場から行われました。
シンスペクティブ社は2020年代後半までに30機の小型SAR衛星の打ち上げを計画しています。
9/26 H-ⅡAロケット打ち上げ(日本)
情報収集衛星「レーダ8号機」を搭載したH-ⅡAロケットの打ち上げが行われました。
H-ⅡAロケットは2001年から運用されている使い捨て型のロケットで、これまでの打ち上げは49回中48回と高い成功率を誇ります。
H-ⅡAは50号機で引退が決定しており、残す打ち上げはあと1回となりました。50号機は2024年度中に打ち上げが予定されています。
ペイロードの「情報収集衛星レーダ8号機」は安全保障や大規模災害の対応の際に画像による情報収集を行う衛星で、2023年1月に打ち上げが行われた「情報収集衛星レーダ7号機」の同型機となります。現在運用されている情報収集衛星は5機ですが、政府は2029年度までにデータ中継衛星を含め9機体制にする方針で、地球上の特定地点を1日最大8回撮影できるようになる予定です。
10/11 エウロパ・クリッパー 打ち上げ(アメリカ)
エウロパ・クリッパー(Europa Clipper)はNASAによる木星の衛星エウロパ(Europa)の探査ミッションです。
木星最大の衛星であるエウロパの表面は氷で覆われており、その地下には地球の2倍ほどの水があるとの説が有力です。エウロパ・クリッパーはエウロパの氷の厚さの調査など、地質調査を実施し、生命の存在が可能である条件が整っているかどうかを調べます。
エウロパ・クリッパーは高さ約6m、全長約30mと惑星探査機としては最大級の大きさで、航空電子機器室、無線周波数モジュール、推進モジュールで構成されています。
打ち上げ後、探査機は2030年に木星に到達、その後4年かけてエウロパの調査を行う予定です。
10/20 H3 4号機打ち上げ(日本)
7月に続いて、H3ロケット4号機の打ち上げが行われます。
ペイロードは防衛省のXバンド防衛通信衛星「きらめき3号」です。
Xバンド防衛通信衛星は防衛相が運用する衛星で、大規模災害やミサイル発射などの有事の把握、および自衛隊の統制を高速通信で独自の高速通信で速やかに把握する事が目的となります。
「きらめき」の衛星は1号から3号までの全3機体制での運用を計画されており、きらめき1号は2016年、2号は2017年に打ち上げが行われました。
11月頃 新型ロケット・ニューグレン打ち上げ(アメリカ)
ニューグレン組み立ての様子 – ブルーオリジン公式YouTube
アメリカの宇宙航空企業ブルーオリジン(Blue Origin)によるロケットニューグレン(New Glenn)の打ち上げが予定されています。
ニューグレンは再利用型の大型ロケットで、全長98mとロケットの中でもかなり大きく、昨年オリオン宇宙船の打ち上げにも利用されたスペース・ローンチ・システム(Space Launch System)とほぼ同じ大きさです。(歴史上の世界最大のロケットは1967年から1972年に運用された全長110.6mのサターンV)ペイロード容量(搭載できる衛星の総重量)は低軌道で45t、静止軌道で13.6tとなります。
ニューグレンはケープカナベラル宇宙軍基地から打ち上げられてから衛星を軌道投入、大気圏再突入後にフロリダのポートカナベルの船上に着陸予定としています。
12月予定 ヴィーナス・ライフ・ファインダー(Venus Life Finder)ミッション実施(アメリカ)
民間企業では初となる金星探査ミッションの探査機の打ち上げが行われます。
ヴィーナス・ライフ・ファインダーはロケットラボとマサチューセッツ工科大学が共同で開発する探査機です。「ライフ・ファインダー」の名称の通り、生命の痕跡を調査することを目的としています。
金星の大気はほぼ濃い二酸化炭素で構成されており、表面の平均温度は400度に達するなど、生物が住むことができない環境ですが、上空50kmから65kmでは気圧と温度は地球とほぼ同じである事、また、過去には水があった説や生命が存在なければ作られない有機化合物が存在する説もあり、将来居住が可能な地の候補としても挙げられています。
ヴィーナス・ライフ・ファインダーは約40㎝の小型の探査機で、また1,000万ドル未満の低コストで実施されることも特徴です。金星到着後は搭載した計器を投入し、金星の大気の組成、濃度や有機化合物の存在の有無を確認することができるとしています。
打ち上げはニュージーランドのマヒアにあるロケットラボの発射施設から行われる予定です。
12月予定 カイロスロケット2号機打ち上げ(日本)
民間企業スペースワンの開発するロケット「カイロス」2回目の打ち上げが行われます。
スペースワンは主に小型ロケットによる人工衛星の宇宙輸送事業サービスを展開する企業で、小型ロケット「カイロス」の開発や和歌山県串本町にあるロケット発射設備「スペースポート紀伊」の運用を行っています。
2023年3月には「カイロス」及び発射場の初の打ち上げが行われましたが、推力が低く速度が不足し、設定していた正常飛行範囲から逸脱したため、破壊指令されました。今回の打ち上げはその再挑戦となります。
「カイロス」2号機には小型衛星5基を搭載することも発表されています。
12月予定 「HAKUTO-R」打上げ(日本)
HAKUTO-R ミッション2 発表会 – HAKUTO-R公式YouTubeチャンネル
HAKUTO-Rの2回目のミッションが、最速で2024年12月に行われることが発表されました。
HAKUTO-Rは月面探査プログラムの名称です。2023年の1回目のミッションでは、民間初となる月面着陸に挑戦し話題となりました。
2回目のミッションではispaceが開発を行っている月着陸船レジリエンス(RESILIENCE)ランダーによる月面着陸の再挑戦に加え、同じくispaceが開発を行っているローバー(月面探査車)テネシアス(TENACIOUS)を月面展開し、月面探査と月の砂(レゴリス)の収集を行う予定としています。
また、テネシアスローバーの他に以下のペイロードが搭載されると発表されています。
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- HAKUTO-Rのコーポレートパートナーである高砂熱学工業株式会社の月面用水電解装置
- 株式会社ユーグレナの月面環境での食料生産実験を目指した自己完結型のモジュール
- 台湾の国立中央大学宇宙科学工学科が開発する深宇宙放射線プローブ
- 株式会社バンダイナムコ研究所の「GOI宇宙世紀憲章プレート」
- ispaceの欧州子会社ispace EUROPEが開発するマイクロローバー
―ispace公式サイトより引用
HAKUTO-Rの打ち上げはケープカナベラル宇宙軍基地から行われる予定です。
有人宇宙飛行
9/10~9/15 民間宇宙旅行ミッション ポラリス・ドーン実施(アメリカ)
ポラリス・ドーンPV – SpaceX公式YouTube
民間宇宙旅行ミッションのポラリス計画(Polaris Program)の第一段階、ポラリス・ドーン(Polaris Dawn)が実施されました。
ポラリス計画はアメリカの起業家ジャレッド・アイザックマン氏が企画を行う宇宙旅行事業です。アイザックマン氏は、2021年に行われた民間人のみが搭乗した初の民間宇宙飛行インスピレーション4(Inspiration4)で司令官を務めた人物で、宇宙に行くのはポラリス・ドーンで2回目となります。
ポラリス・ドーンのメンバーはミッションコマンダーのアイザックマン氏、パイロットのスコット・ポティート氏、ミッションスペシャリストのサラ・ギリス氏、ミッションスペシャリスト兼メディカルオフィサーのアンナ・メノン氏の4人です(全員アメリカ)。
打ち上げは9月10日(日本時間9月11日)にケネディ宇宙センターから行われました。4日間のミッション期間でSpeceXの宇宙船クルードラゴンを利用して地球上空約1400 km*への到達や商業宇宙飛行初の船外活動、スターリンク通信の実験などが行われ、9月15日にフロリダ半島沖に着水、地球に帰還しました。
*地球を周回する有人宇宙飛行としてはこれまでで最高高度
9/28 Crew-9 打ち上げ(アメリカ)
半年間ごとにISSの人員交代を行う長期ミッションCrew-9が実施されました。
Crew-9はNASAが民間の宇宙船などを利用してISSクルーの入れ替えを行うCCP(Commercial Crew Program)プログラムの9回目のミッションです。過去にはCrew-1に野口聡一宇宙飛行士、Crew-2に星出彰彦宇宙飛行士、Crew-5に若田光一宇宙飛行士、Crew-7に古川聡宇宙飛行士が参加しています。
Crew-9にはニック・ヘイグ氏、ステファニー・ウィルソン氏とジーナ・カードマン氏(いずれもアメリカ)、アレクサンドル・ゴルブノフ氏(ロシア)4名が参加する予定でしたが、スターライナーでISSに行ったクルー2名(バリー・ウィルモア氏とスニ・ウィリアムズ氏、いずれもアメリカ)をクルードラゴンで帰還させるため、ヘイグ氏とゴルブノフ氏の2名のみが搭乗することになりました。
2025年に実施される予定のCrew-10には大西卓哉宇宙飛行士、同年に油井亀美也宇宙飛行士がISS長期滞在に参加予定です。
2024年中 SpaceX 有人ミッション「フラム2」実施予定(アメリカ)
宇宙船で北極及び南極上空を低軌道で通過する民間宇宙飛行「フラム2(Fram2)」の実施が予定されています。
Fram2はSpaceXのCrew Dragon(クルードラゴン)を利用した民間宇宙飛行計画です。プロジェクト名は1893年から1912年にかけて極地探検を行ったノルウェーの船、フラム号に由来し、「第二のフラム号に」という意味合いで「フラム2」と名付けられました。
メンバーは起業家で冒険家のワン・チュン氏(マルタ)が指揮し、ヤニッケ・ミケルセン氏(ノルウェー)がコマンダーを務め、エリック・フィリップス氏(オーストラリア)がパイロット、ラベア・ロゲ氏(ドイツ)がミッションスペシャリストとして参加します。
ミッション期間は3日~5日間の予定で、期間中はスティーブ(STEVE=Strong Thermal Emission Velocity Enhancement)と呼ばれる大気の発光現象の調査を行います。
スティーブはオーロラの撮影中に初めて観測されました。通常のオーロラとは色や持続時間、観測できる場所などが異なるのが特徴ですが、近年までオーロラと混同されているなどの影響で詳しい事が分かっていません。
また、宇宙飛行が人体にどのような影響を与えるかの研究も行います。
多彩な民間ミッションで注目の2024年後半
2024年後半は民間ミッションが盛りだくさんで、こちらで紹介した中でも約半数が民間によるものです。
民間企業の参入により、宇宙開発のペースがますます加速している事を感じさせます。民間主導の宇宙時代の幕開けを告げる重要な時期となりそうです。