2021年12月、前澤友作氏が日本の民間人で初めてISSへ滞在し、「宇宙旅行元年」と呼ばれる時代が到来しました。加えて2022年4月には米Axiom Space社による民間人による史上初の宇宙飛行士ミッション(Ax-1)が実施されました。ISSへの宇宙旅行はこれまで行われてきましたが、今回は民間宇宙飛行士のミッションという点で一線を画しました。昨今、宇宙飛行の商用化に限らず民間企業によるロケット開発など、「宇宙ビジネス」時代の到来を実感させる動きが相次いでいます。しかし、宇宙ビジネスがどんな事業を指すのかご存知の方は多くないのではないでしょうか? この記事では、宇宙ビジネスの市場規模や代表的な事業領域について解説します。宇宙ビジネスを大きく3つの事業領域に分類し、事業内容や変遷・将来の展望についてご紹介します。
宇宙ビジネスとは?
宇宙ビジネスとは、商業目的で行われる宇宙関連事業の総称です。人工衛星による観測やロケットの打ち上げ、地上での宇宙関連製品開発などが宇宙ビジネスに含まれます。
まずは、宇宙ビジネスの市場規模や宇宙開発の歴史についてご紹介します。
世界的な市場規模は約40兆円
宇宙ビジネスの世界的な市場規模は、モルガン・スタンレーの予測によると2021年に43兆円となり、2040年には120兆円以上*に拡大するという見通しもあります。中でも、通信・放送・測位・地球観測といった衛星サービスの分野で成長が期待されています。
宇宙ビジネス市場を、地上設備、衛星サービス、非衛星産業に分けた場合、売上高の内訳は、地上設備が約36%、衛星サービスが約34%、非衛星産業が約26%、となっており(図1:売上高)、ロケット・衛星の開発・打ち上げが全体の7割を占めていることが分かります。
*出典:Morgan Stanley|Investing in Space Exploration
*(注)1ドル=109.8円で計算(2021年平均TTM)
宇宙ビジネスの変遷と宇宙進出の歴史
宇宙ビジネスの始まりは、1970年~1980年頃、米ソの冷戦がきっかけで大きく広がっていくことになりました。1980年代に入り、現在でも宇宙ビジネスの先頭に立っている、アリアンスペースやルクセンブルクの民間企業SESなどが誕生。アメリカで宇宙法整備が行われたこともあり、1990年以降に宇宙ビジネスのベンチャー企業が多数誕生したと言われています。
また、宇宙ビジネスは宇宙開発の進歩とともに歩んでいると言えます。以下で、人類の宇宙進出の歴史を年表型式でご紹介します。
時期 | 出来事 |
---|---|
1897年 | 旧ソ連で科学者コンスタンチン・ツィオルコフスキーが、ロケットが高速で飛ぶ原理を論理的に示した「ツィオルコフスキーの公式」を発表 |
1957年 | 旧ソ連が世界最初の人工衛星「スプートニク」打ち上げに成功 |
1969年 | アメリカがアポロ11号で人類初の有人月面着陸に成功 |
2011年 | ISS完成 |
2020年 | 米SpaceXが民間企業で初の有人宇宙船の飛行に成功 |
1897年、旧ソ連で現在のロケット設計にも使われる「ツィオルコフスキーの公式」が発表されました。この理論を提唱した科学者のコンスタンチン・ツィオルコフスキーは、ほかにも人工衛星や宇宙ステーションなどのアイデアを考案したと言われています。
人工衛星の打ち上げに初めて成功したのは、ロケットの高速飛行の原理が発表されてから60年後の1957年。その12年後の1969年にアポロ11号で人類初の有人月面着陸に成功しました。次に大きな出来事として挙げられるのが、2011年のISSの完成です。ISSとは、世界各国が協力して完成させた宇宙空間にある有人実験施設のことで、広さは約8,000㎡でサッカー場と同程度と言われています。宇宙の有効利用のため、さまざまな国の研究者がここで実験を行っています。
そして、2020年にアメリカのSpaceX社が民間企業で初の有人宇宙飛行に成功。国際宇宙センターとのドッキングにも成功しました。アポロ11号で人類初の月面着陸からおよそ50年後、宇宙開発がまた一歩前進したと言えます。
宇宙ビジネスの2つの事業領域
ここまでは、世界の宇宙ビジネス市場の概況をご紹介しました。次に、宇宙ビジネスを2つに分類し、それぞれのビジネスの事業内容やこれまでの変遷・将来的な展望について説明します。
<宇宙ビジネスの2分類>
- 宇宙機器製造・宇宙インフラ
- 宇宙利用
1.宇宙機器製造・宇宙インフラ
まずは、ロケットや人工衛星、地上局など宇宙利用を実現するための機器製造からインフラビジネスについて見ていきましょう。
宇宙機器製造
主にロケットや人工衛星、地上での設備など宇宙開発に必要な資材や機器を製造するビジネスを指します。宇宙機器製造の歴史は、国産ロケット開発から始まり、ISS「きぼう」のモジュール開発、補給船「こうのとり」開発、ロケット打ち上げ支援用装備の設備などビジネスの領域が拡大していきました。現在は、超小型・小型衛星のニーズ増加に伴い、小型ロケットの打ち上げニーズが高まっています。一方で、月面基地構想も活発化しており、月着陸船、月面探査車両の開発も進められる予定です。
▼宇宙機器製造の一例
- 小型ロケット、小型衛星の製造・打ち上げビジネス
- 月滞在のためのエネルギーシステムや閉鎖空間における衣食住システム等の開発
- 衛星の状態を確認するための地上システムの開発、製造
宇宙インフラ
宇宙インフラビジネスとは、ロケットや人工衛星、ISS等の軌道上の施設を構築・整備するビジネスを指します。宇宙空間を人類の活動の場として自在に利用するためには宇宙インフラが不可欠です。21世紀初頭頃までは、ISSを中心とする地球軌道上のインフラの建設・運用が行われ、今後は月面基地の建設・運用に進むなど領域を拡大していくと考えられています。
▼宇宙インフラビジネスの一例
- 小型衛星の打ち上げ支援
- ISSや衛星から別の小型衛星が放出されるサービス
- 宇宙関連事業におけるリスク*に備える宇宙保険の提供
(*地上での輸送時のトラブル、ロケットの打ち上げの失敗、軌道上での衛星の故障など)
2.宇宙利用ビジネス
宇宙ビジネスには、宇宙環境を活用して人々の生活に役立てるビジネスが存在します。人工衛星を活用するビジネスと宇宙空間を活用するビジネスに分けて見ていきましょう。
人工衛星の利用
人工衛生を利用するビジネスは大きく3種類「位置情報サービス」「衛星から撮影した画像サービス」「通信サービス」に分けられます。
位置情報システムは測位衛星システムとして各国で整備が進んでいます。中でも日本の測位システムである準天頂衛星「みちびき」は、GPSと一体的に利用でき、GPSだけでは得られない高精度な測位を実現できるという点で注目されています。現在4機まで打ち上げられ、2023年度には7機体制になる予定です。
画像サービスは、衛星から送られた画像データから情報を取り出し、サービスを提供します。
通信衛星を所有した通信サービスは、インターネット通信や高速ブロードバンドを指し、私たちの生活になくてはならない存在です。
人工衛星の使用用途は、航空や船舶・鉄道などの交通・運転ナビゲーションに始まり、公共測量や時刻の特定、安全保障等の危機管理など多岐にわたります。
▼人工衛星を利用するビジネスの一例
- 衛星データを活用したから農業支援
- 農機、建機などの自動走行支援
- 船舶の様子を監視し、効率な航行の支援
- 宇宙空間通信ネットワーク*の構築
(*衛星の電波が受信できない場所においても、他の衛星を経由して通信できる環境)
なお、JAMSSでは人工衛星によって取得したデータをもとに農業を支援する情報システム(Digital Farming©)を提供しています。詳しくは、JAMSSの「Digital Farming」のページをご覧ください。
宇宙空間の活用
宇宙空間を活用するビジネスとは、宇宙ならではの環境を使った事業を指します。例えば、地球上では実現できない環境を利用し、新たな薬や技術の開発を行います。その他にも宇宙資源の調査・探査なども該当します。
宇宙空間においては、今後次世代衛星インフラの構築が進み、宇宙ゴミと言われるスペースデブリの除去などの軌道上サービスが商業化される見込みです。
▼宇宙空間の活用ビジネスの一例
- 月面資源採掘
- 宇宙太陽光発電
- バイオテクノロジー
なお、JAMSSでは宇宙空間の微小重力環境を生かし、高品質タンパク質の生成を行うサービス「Kirara」を提供しています。JAXAも同様のサービスを提供していますが、大きな違いは「Kirara」が民間向けのサービスであることです。宇宙ビジネスの一つとして、さまざまな企業へ参加を呼びかけています。
詳しくは、JAMSSの微小重力環境を生かした創薬研究支援事業「高品質タンパク質結晶生成サービス「Kirara」のページをご覧ください。
まとめ
宇宙ビジネスの市場規模は、2021年に約430兆円に、2040年には120兆円以上となる見込みです。そもそも宇宙ビジネスは、技術競争が国家間で繰り広げられ、秘匿性が高い事業であったせいで長らく参入が難しい業界でした。そういった背景もあり、宇宙ビジネスをこれから発展させるため、政府や関係団体によって法整備や参入障壁を低くする取り組みが徐々に進みつつあります。
近年ではSpaceXが有人宇宙飛行に成功したことで民間宇宙飛行の可能性が広く認識され、宇宙の存在が一般人にぐっと近寄りました。また、月面資源の採掘など宇宙の資源を有効活用するための探査ビジネスも注目を集めています。
このような宇宙ビジネスの市場において、日本企業ではJAMSSがパイオニアとして世界の宇宙ミッションの安全を支えてきました。そして、これまでに参加したプロジェクトで得た知見を生かし、新たなビジネスを創出する取り組みも行っています。