「人工衛星」。誰もが聞いたことのある言葉、目にしたことのある文字だと思いますが、皆さんが持っている人工衛星の知識は、ほんの一部だけかもしれません。今回は、人工衛星のさまざまな種類、人工衛星が持つさまざまな目的をご紹介します。個人の暮らしから国家の防衛にまで役立つ人工衛星のことを、ぜひ知ってみてください。
人工衛星とは?目的や種類は?
人工衛星とは、主に地球の周り(軌道上)を公転している、人間によって打ち上げられた人工天体を指します。さまざまな種類の人工衛星が、さまざまな目的を持って地球軌道上を周回しています。
天気予報や衛星放送に利用される装置
人工衛星には多くの種類があり、それぞれに異なる目的がありますが、私たちにとって身近な用途にも利用されています。例えば、地球観測衛星の一つである「気象衛星」はその代表例です。地球上の広い範囲の雲や水蒸気の分布、海や陸の温度などを観測できる気象衛星は、ニュース番組で目にする天気予報に欠かせない存在です。
他にも、BS・CS放送やインターネット通信には「通信・放送衛星」が、衛星測位システムが用いられるカーナビや地図アプリには「測位衛星」という人工衛星が利用されています。このように、人工衛星は私たちの暮らしをより豊かで、より便利なものにする目的でも用いられているのです。
この他、身近な存在ではありませんが、近年問題になっているスペースデブリ(宇宙ゴミ)を除去するための衛星や、軍事目的で利用される軍事衛星や偵察衛星も人工衛星に分類されます。スペースデブリ除去については、実証を目的とした技術開発に対して日本でも国家予算が立てられており、今後耳にする機会が増えるかもしれません。ちなみに、ロケットやスペースシャトル、国際宇宙ステーションなどの「有人衛星」は一般的に人工衛星とは呼ばれませんが、実は人工衛星に含まれます。
探査機は人工衛星ではない
火星や金星のような地球以外の惑星を調査したり、宇宙空間の計測や観測を行ったりする機器は「探査機」と呼ばれています。人工衛星と探査機はどちらも「人工的に打ち上げられた物体」ではありますが、両者は区別されるのが一般的です。
人工衛星が地球の周りを回っているのに対し、探査機は広大な宇宙の謎を調査するために地球から遠く離れたところまで航行する、という大きな違いがあります。
人工衛星の種類と役割
「天気予報や衛星放送に利用される装置」でご紹介したように、私たちの生活に役立っている人工衛星の代表格として挙げられるのが「地球観測衛星」「通信・放送衛星」「測位衛星」の3種類です。
「地球観測衛星」「通信・放送衛星」「測位衛星」、それぞれには大きく以下のような役割があります。
地球観測衛星の役割:地球上の「物」や「状況」を測定する。
通信・放送衛星の役割:地球上に「情報」を伝達する。
測位衛星の役割:地球上の「位置」を測定する。
3種類の人工衛星について、詳しくは2章「人工衛星の3つの役割」でご紹介します。
人工衛星は肉眼で見える?
人工衛星は種類によっては肉眼で見えるものがあります。上空を移動する点のようなものが見えたら、それは人工衛星かもしれません。流れ星と間違われることもありますが、人工衛星の移動スピードはゆっくりとしており、数分にわたって見え続けることもあります。
人工衛星そのものは光を発しておらず、太陽の光を反射することで、私たちはその存在を確認することができます。そのため、太陽が地球の影に隠れてしまう夜中は人工衛星を見られる可能性が低くなります。
人工衛星を確認できるのは、空が暗い「日の入り後」や「日の出前」の数時間程度です。天候などの条件にもよりますが、注意深く眺めていれば数個は見つけることができるでしょう。
人工衛星の3つの役割
ここからは「地球観測衛星」「通信・放送衛星」「測位衛星」の3種類の人工衛星について、それぞれどのような役割があるのかをご紹介します。
【衛星放送など】情報を伝える
BSやCS(衛星放送)などに用いられる「通信・放送衛星」には、地上に情報を伝える役割があります。はるか上空にある人工衛星から地上に情報を送るため、建物や地形の影響を受けづらく、広い範囲に電波を届けることができ、災害に強いという特徴があります。
仕組みとしては、地上にある送信局から人工衛星に情報を飛ばし、人工衛星が情報を地上に送り返すことで、広域の受信局に対して大容量の情報を届けています。
通信・放送衛星が周回しているのは、地上から約36,000km離れた赤道上空の軌道です。地球の周りを地球の自転と同じ速さで回っており、同じ位置に止まって見えることから、この軌道は「静止軌道」と呼ばれています。
なお、BSはNHKやWOWOWなどの番組を放送するための人工衛星(放送衛星)ですが、CSは通信全般を目的とした人工衛星(通信衛星)という違いがあります。
【天気予報など】状況を把握する
「地球観測衛星」には、地上のあらゆる物を測定・把握する役割があります。観測目的はさまざまで、先にご紹介した天気予報以外にも、地震や台風といった自然災害に対する防災、温室効果ガスの分布や黄砂の飛来状況といった地球環境の把握に役立てられています。この他、ダムや鉄道路線などのインフラを監視して劣化状況を把握したり、空き地や耕作放棄地を把握することで建設計画を考えたりすることも可能です。
地球観測衛星は、観測対象物が反射・放射している光や電磁波などをセンサーでキャッチすることによって地上の観測を可能にしています。このように遠く離れた場所から物の大きさや形、色などの情報を把握する技術を「リモートセンシング」と呼び、多くの研究分野で活用されています。
地上の広い範囲を観測する目的を持つ地球観測衛星の多くは、地上から約400~1,000km離れた「太陽同期準回帰軌道」という軌道を周回しています。この軌道は、ある地域を同じ時間に通過する(地上に太陽が当たる角度が同じになる)ことから、定期的に同じ地域を観測したい場合に適しています。
ちなみに、日本の気象衛星「ひまわり」も地球観測衛星の一つですが、太陽同期準回帰軌道ではなく「静止軌道*」を周回することで、気象状況の観測を行っています。
*静止軌道:赤道上の高度約36,000kmの軌道。静止軌道上にある静止衛星は地球の自転と同じスピードで周回するので、地上からは常に一定の場所に居るように見える
農作物の収穫にも人工衛星の技術が活用できる?
人工衛星の観測技術を利用して、農作物の生育状況を見える化できるサービスも登場しています。宇宙から、対象とする畑や田んぼの状態を俯瞰して確認できるので、農作物のトラブルに素早く対応できるほか、適切な収穫時期が推定できます。そのため、安定した収穫量が確保できるようになります。
詳しくは、JAMSSの観測技術を利用した営農支援サービス「Digital Farming」のページをご覧ください。
【GPSなど】位置を測る
衛星測位システムを実現する「測位衛星」には、位置情報を計測するための信号を送信する役割があります。衛星測位には4つの人工衛星が必要で、それらが発信する電波を地上の端末がキャッチすることで位置を特定する仕組みです。
衛星測位システムとして最も有名なのはアメリカが運用している「GPS」ですが、日本にも「みちびき(準天頂衛星)」という独自のシステムが存在します。みちびきはGPSと一体的に利用できるため、衛星の数を増やすことでGPSの性能を補完し、より安定した測位を可能にします。2018年11月から4機体制で運用しており、2023年度に7機体制に移行する予定です。
現在、衛星測位システムはカーナビや地図アプリなどのサービスに用いられており、一般にも普及していますが、将来的には自動運転やスマート農業などへの活用も期待されており、実証試験が進められています。
人工衛星同士はぶつからない?
現在、数千という単位の人工衛星が地球の周りを回っていますが、衛星同士がぶつかる可能性は非常に低いといえます。それは、人工衛星によって打ち上げられる高度が異なり、さらに、それぞれの人工衛星が異なる軌道で周回しているためです。
ただし、人工衛星同士がぶつかる可能性はゼロではありません。実際、2009年にはアメリカの民間通信衛星とロシアの軍事衛星が衝突する事故が発生しました。これまでに人工衛星同士がぶつかった事故はこの1件だけですが、人工衛星の打ち上げが増えれば衝突する可能性は高まっていきます。
ちなみに、故障した人工衛星やロケットの破片といったスペースデブリ(宇宙ゴミ)の存在も、事故を引き起こす要因になり得ます。過去には1996年と2013年に1件ずつ、人工衛星にロケットの破片が衝突する事故が起きています。
まとめ
今回ご紹介したように、人工衛星が収集するデータはすでに多くの用途で利用されていますが、今後はより多岐にわたる分野での活用が期待されています。これまで主に研究分野で利用されてきた人工衛星のデータが、産業分野でもますます活用されていくでしょう。
今は宇宙のデータを個人が確認できる時代です。かつては国家プロジェクトでしか閲覧できなかったような情報を、一般の私たちも利用できるようになりました。一昔前と比べて、間違いなく宇宙は身近な存在になったと言えるでしょう。