ロケット発射場ってどんな所? 世界の発射場もご紹介!【アジア編】

通信・観測・輸送など、宇宙インフラへの需要が高まる中、ロケットの打上げ需要も増加の一途をたどっています。ロケット打上げのニュースも、かなりの頻度で見かけるようになりました。
ところでロケットを打ち上げるための発射場はどんな所にあるか、ご存知ですか?
近年では和歌山県や北海道に新たな発射場が作られ、2023年には北欧にロケット発射場が2カ所開港と、新しいロケット発射場も増えてきています。
そこで今回は、ロケット発射場を大特集!
実績豊富な老舗から将来が楽しみな新しい宇宙港まで、宇宙開発最前線の現場をご紹介します。

ロケット発射場はどんな場所?

宇宙への扉を開くロケット発射場。
打上げの際には多くの注目が集まりますが、あまり身近ではない施設です。
まずはロケット発射場がどんな場所なのか、見ていきましょう。

ロケット発射場の種類

ロケット発射場の厳密な分類はありませんが、運営者によって施設の目的などが異なってきます。

国が運営するロケット発射場

国が運営するロケット発射場例 所在地 運営 運営者の国籍
種子島宇宙センター 日本・鹿児島県(種子島) JAXA 日本
内之浦宇宙空間観測所 日本・鹿児島県
ケネディ宇宙センター アメリカ・フロリダ州 NASA アメリカ
バイコヌール宇宙基地 カザフスタン・クズロルダ州 ロシア連邦宇宙局 ロシア

国が運営するロケット発射場は、多くの場合、その国の宇宙開発の中心的役割を担っています。
国家プロジェクトとしての宇宙ミッションや、衛星の打上げなど、国家の宇宙開発や安全保障に関わるミッションが実施されます。
国営の発射場は、その国の宇宙政策や国際協力の場としても重要な役割を持ち、宇宙ステーションへの物資輸送や、有人宇宙飛行、深宇宙探査機の打上げなど、国際的な宇宙プロジェクトの拠点となることも少なくありません。
近年は商業利用や民間ロケットの打上げにも対応するなど、その役割は広がりつつあります。

軍によるロケット発射場

軍が運営するロケット発射場例 所在地 運営 運営者の国籍
ケープカナベラル宇宙軍基地 アメリカ・フロリダ州 アメリカ宇宙軍 アメリカ
ヴァンデンバーグ宇宙軍基地 アメリカ・カリフォルニア州
プレセツク宇宙基地 ロシア・アルハンゲリスク州 ロシア宇宙軍 ロシア

軍によるロケット発射場は主に軍事衛星やミサイル実験に利用されます。施設によっては高い機密が保たれ、一般人の立ち入りが厳しく制限される場所もあります。

国の宇宙ミッションに利用されることも多く、マーキュリー計画(アメリカ初の有人宇宙飛行)、ジェミニ計画(アメリカで2回目の有人宇宙飛行)、そしてアポロ計画ではケープカナベラル空軍基地(2020年アメリカ空軍から施設が移管され、空軍基地から宇宙軍基地へ名称が変更)からの打上げが実施されました。

また、国が運営する発射場同様、近年は民間によるロケット打上げの計画に発射場を貸与するなど、軍事目的以外の利用も増えてきています。

民間企業によるロケット発射場

民間企業が運営するロケット発射場例 所在地 運営 運営者の国籍
北海道スペースポート 日本・北海道 SPACE COTAN 日本
スペースポート紀伊 日本・和歌山県 スペースワン
スペースポートおおいた 日本・大分県 大分県
スターベース アメリカ・テキサス州 SpaceX アメリカ
ロケット・ラボ発射施設 ニュージーランド・マヒア島 Rocket Lab

民間宇宙航空企業の躍進により、発射場を持つ民間企業も増加してきています。

低コストでの打上げの実施や発射回数の増加のために衛星の打上げや小型ロケットの発射に特化している事も多く、軍や国の発射施設と比べると比較的規模が小さめです。

今後、小型衛星の需要増加や宇宙旅行の実施などで、民間発射場の重要性はさらに高まると予想されます。

 

現在多くの発射場が衛星投入のためのもので、2024年8月時点で有人宇宙飛行を実施したのは以下の5カ所のみです。

・バイコヌール宇宙基地

・ケープカナベラル宇宙軍基地

・ケネディ宇宙センター

・コーンランチ(アメリカ 宇宙航空企業Blue Originの打上げ施設)

・酒泉衛星発射センター(中国)

また、近年は地上の発射場以外にも海上で打ち上げる洋上発射場や航空機などを利用した空中発射の実証も進められています。

ロケット発射場の設備構成

発射場ごとに細かな違いはありますが、ロケットを飛ばすための施設は主に以下の設備で構成されています。

射点

種子島宇宙センター 大型ロケット発射場©JAXA

ロケットを発射させるための設備がある場所を「射点」といいます。組み立てられたロケットが運ばれ、発射台に設置されることでロケットの発射準備が行われます。

発射台

発射前にロケットの台座となる設備です。
射点に固定されている発射台もあれば、種子島宇宙センターの発射場のように、組み立て時から台座となり、そのまま射点まで運搬する機能を持つ移動式の発射台もあります。
発射台にはロケットの保守点検のために使用される整備塔の他、ロケットを支える支持部や、打上げ時の音響を抑え、ロケットへの熱損傷を防ぐ注水装置などが備わっています。

避雷塔

ロケット待機中、落雷によるロケットの損傷を防ぐため、発射台の近くには避雷塔が設置されることが多いです。
例えば種子島宇宙センターの大型ロケット発射場では、発射台のすぐそばに赤白カラーの避雷塔が2つ建っています。

格納庫・ロケット、衛星組み立て設備

輸送されたロケットや衛星の部品を格納し、打上げに向けて組み立てを行う設備です。
ロケットの組み方は横向きで組み立てた後運搬され発射台で起立する形式と、縦に組み上げた後にそのまま射点まで運ばれる形式に大きく分けられます。
横向きの組み立てはSpaceX社のDelta IVなどで採用され、縦向き形式はH3ロケットなどで使用されています。
横向きの場合は運搬や起立作業の手間があるものの低い建物でも組み立てができるのに対し、縦向きの場合は組み上げてそのまま移動できる反面、移動式の発射台や射点近くに大規模な格納庫や整備塔が必要です。種子島宇宙センターやケネディ宇宙センターは射点近くに縦向きの整備組立棟を設けています。
また、内之浦宇宙空間観測所のΜセンターのように射点と組み立て設備が統合している発射場も存在します。(現在Μセンターはイプシロンロケット用に改修されています)

この他、ロケットに注入する推進剤などを貯蔵するガス貯蔵施設などがあります。

管制・指令関連施設

総合指令棟管制室©JAXA

ロケットを打上げ、飛行させるための施設です。打上げ前にはミッションに関わる人員が施設に入り、ロケットの発射準備や飛行の監視・制御に関するオペレーションを行います。

管制室

打上げ作業の中心となる場所です。ロケットを遠隔操作し、ロケットの組立・調整、推進剤の注入、カウントダウンなど、打上げまでの発射作業全般の業務を担います。
ロケット整備に関わる都合上、管制室は射点近くに設置されることが多いです。
また、追尾など打上げ後の業務は指令室に引き継がれます。

指令室(ミッションコントロールセンター)

ロケットが打ちあがった後の追尾、放出したペイロードの運用など、地上からロケット及び衛星の管理を行う場所です。
管制室とは異なり、指令室は射点から離れた遠方に設置されることもあります。

追尾設備

打上げ後、ロケットの信号を受信するための設備です。
ロケットからの電波を受信するため、飛行経路にあたる所にアンテナやそれを管理する建物が複数の場所に設置されます。
例えばJAXAでは種子島、内之浦、小笠原、グアム島(アメリカ)、クリスマス島(キリバス)、サンチャゴ(チリ)に追尾局があります。

この他に発射場近辺の天気を観測する気象塔などが設置されることがあります。

【国別】ロケット発射場紹介・アジア編

こちらでは各国の代表的なロケット発射場をご紹介します。
現地に行くのは難しいかもしれませんが、打上げのライブ配信などは多数行われていますので、どのような発射場が今後出てくるか、注目してみてください。

日本のロケット発射場

種子島宇宙センター

種子島宇宙センター竹崎地区全景©JAXA

JAXAが運用する日本最大のロケット発射場です。
鹿児島県の種子島南東部、青い海と白い砂浜に囲まれた美しい景観の中に立地し、総面積約970万平方メートル(東京ドームおよそ200個分)の広さをもちます。
1968年に初めてロケットが打ち上げられて以降、H-IIロケットやH3ロケットなど多数のロケット・人工衛星の打上げを行っており、日本の宇宙開発の中心地として重要な役割を果たしています。
大、中、小の幅広いサイズのロケット打上げに対応した3つの発射台(現在使用されているのは大型ロケット発射場のみ)、大型ロケット組立棟、液体エンジン試験場、総合司令棟などの主要施設のほか、宇宙科学技術館が併設されており、無料で見学が可能です。また、施設内を見学するバスツアーも開催されています。

内之浦宇宙空間観測所

鹿児島県南東部にあるJAXAが運営する宇宙施設です。
設立は種子島宇宙センターより前の1962年で、1970年に打ち上げられた日本初の人工衛星「おおすみ」は、内之浦宇宙空間観測所から打ち上げられました。また、2003年には「はやぶさ」初号機の打上げも行われています。
現在は小型ロケット・イプシロンや観測ロケットの打上げを中心に運用されていますが、小型ロケットだけではなく「はやぶさ」初号機の打上げに利用されたミューロケットなどの打上げにも対応しています。
宇宙科学資料館が併設されており、内之浦宇宙空間観測所で打上げが行われたロケットや衛星が紹介されています。資料館以外の施設は特別公開時を除き、外観のみ見学が可能です。

スペースポート紀伊

紀伊半島最南端に位置する民間企業・スペースワンによる日本初の民間ロケット発射場です。
2024年3月には同企業が開発したカイロスロケット初号機の打上げが行われ、話題となりました。
国道42号線に面し、近隣の南紀白浜空港や関西国際空港からおよそ2時間半のアクセスの良さが特徴で、衛星の運搬から打上げまでをスムーズに行えるとしています。
商業衛星の打上げに特化しており、総合司令塔、射点、ロケット組み立て棟で構成される小規模かつシンプルな発射場です。
2024年8月現在、一般公開は行われていません。

中国のロケット発射場

酒泉(シュセン)衛星発射センター


神舟12号打ち上げのドキュメンタリー – CCTVYou Tube

1958年に設立された、中国北部甘粛省(カンシュクショウ)にある中国最大の宇宙施設です。
海抜1000mの高地でありながら周囲は平たんな地形かつ人口が少ない地であり、加えて砂漠地帯のため雨が少なく、ロケットの打上げに適した環境です。
約2,800平方キロメートル(富山県とほぼ同じ面積)の広大な敷地を有し、4つの発射場(現在稼働しているのは1つ)7つの射点(建設中を含めば8つ)、コントロールセンター、ロケット2基を収納できる格納庫、宇宙飛行士訓練エリア、ペイロード組み立て棟など多くの施設で構成されます。中国人民解放軍の軍事航空宇宙軍が運営を行い、ロケット及びミサイルの試験飛行や衛星の打上げ、そして有人宇宙飛行まで対応しています。
1970年に打ち上げられた中国初の人工衛星「東方紅1号」をはじめ、重要な衛星やロケットの打上げを多数担ってきました。また、中国の有人宇宙船「神舟」の有人打上げも全て酒泉衛星発射センターから行われています。
国家・軍事の宇宙プロジェクトの他に商業衛星の打上げも行われており、射点のうち1つは中国の宇宙航空企業ランドスペース(蓝箭航天空间科技股份有限公司 世界初のメタン燃料ロケット朱雀を開発)が運営しています。

西昌(セイショウ)衛星発射センター

中国南西部四川省の四川省西昌市にある宇宙施設です。
主に静止軌道への衛星打上げを行っており、1982年の運用開始(初の打上げは1984年)以来およそ中国国内の衛星を中心に200以上の打上げを実施しています。
酒泉と同様、中国人民解放軍の軍事航空宇宙軍が運営し、2つの射点と格納庫、指揮管制センター(本部)、追跡局などを有します。発射場エリアが本部から60kmほど離れた場所にあるのが特徴的です。
西昌衛星発射センターからの代表的な打上げには、中国初の静止通信衛星「東方紅2号」の打上げや、ナビゲーションシステムの衛星「北斗」の打上げが含まれます。また、月探査プロジェクト「嫦娥計画」の一部のミッションも西昌から行われており、月探査機「嫦娥1号」および「嫦娥3号」の打上げが実施されました。

文昌(ブンショウ)宇宙発射センター


上空から見た文昌宇宙発射センター – CCTVYou Tube

中国南東部の海南省文昌市の海南島にある宇宙施設です。
元々は準軌道ロケットの実験基地で、発射場としての運営は2009年から開始されました。文昌宇宙発射センターの管理は西昌衛星発射センターの指揮管制センターが行っています。
南シナ海に面しており、自転速度が速い赤道に近いことから遠心力を利用して大型のロケットを打ち上げやすい環境です。2つの射点と格納庫、管制センターなどの施設があります。
また、近隣には航空宇宙産業関連企業が集う産業パーク・文昌国際航天城があり、将来的にはロケットの打上げも観覧できる宇宙のテーマパークも建設予定です。
2016年に長征7号ロケットの初打上げが実施され、2017年には、有人宇船の「神舟」の最初の無人補給機の打上げが行われました。また、2020年には中国の火星探査機「天問1号」の打上げも文昌宇宙発射センターから実施されました。

太原(タイゲン)衛星発射センター

中国北部の山西省忻州市(キンシュウシ)岢嵐県(カランケン)にある宇宙施設です。
寒冷な地域で乾燥しており、ロケット打上げに向いている安定した気候の地域にあります。
設立は1967年と酒泉の次に古く、試験衛星や気象衛星・地球資源衛星・科学衛星などの応用衛星など各種人工衛星の打上げ、ミサイルの実験などが行われてきました。元々は酒泉の機能を支援及び分散させるために作られ、また設立当初は冷戦時あったことなどから近年まで多くの情報が機密下で運用されていました。
長征ロケットシリーズの打上げに広く利用されており、その中でも長征2号、長征4号などが多く使用されています。1988年には、長征2号Dロケットを使用して中国初の気象衛星「風雲1号」がここから打ち上げられ、以降も多くの気象衛星やリモートセンシング衛星が打ち上げられています。2024年には衛星4機の同時打上げにも成功しています。

インドのロケット発射場

サティシュ・ダワン宇宙センター

インド南東部アーンドラ・プラデーシュ州シュリハリコータ島にある宇宙施設です。赤道近くで打上げの際に地球の自転の力を利用しやすく、周辺は無人地帯でもあるため、ロケットの打ち上げに適した立地です。現在2つの発射場が利用されています。
1971年の運用開始以降、インドの宇宙開発の中心的な役割を果たしてきました。元々はシュリーハリコータ発射場として知られていましたが、インドの宇宙開発に貢献したサティシュ・ダワン博士に敬意を表し、2002年に改名されました。
インド宇宙研究機関の主要な打ち上げ拠点として、気象衛星、通信衛星、地球観測衛星など、多様な衛星や探査機などを打ち上げており、2023年に月面着陸に成功した探査機のチャンドラヤーン3号もこちらから打ち上げが行われました。
さらに今後計画されているインドの有人宇宙計画でもサティシュ・ダワン宇宙センターが利用される予定となっています。

まとめ

東アジアだけでも長年の実績を持つ老舗の発射場から、商業宇宙開発に向けた新興の宇宙港まで多様な施設が稼働しており、多様性と急速な発展が特徴的です。
アジア各国の宇宙開発への意欲は高く、今後も新たな発射場の建設や既存施設の拡張が予想されます。
これらの発射場は、衛星打ち上げや宇宙探査ミッションの基盤となり、宇宙産業の更なる発展に貢献していくでしょう。

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