最前線から見つめる、宇宙ビジネスの未来とは ~【有人宇宙ビジネスサミット】イベントレポート~
2023年3月9日に有人宇宙システム株式会社(JAMSS)主催で「有人宇宙ビジネスサミット」が開催されました。
イベントには宇宙ビジネスに取り組む民間企業や民間宇宙飛行士のMichael López-Alegría氏(米国Axiom Space社、元NASA宇宙飛行士)らが登壇し、ポストISS時代に向けて、日本企業は世界で活躍する上での課題や必要な政策の議論が繰り広げられました。
今回はイベントの一部内容をレポートいたします。
イベントのアーカイブ配信は以下からご欄いただけます。
有人宇宙ビジネスサミット 概要
日時:2023年3月9日(木) 15時00分~18時00分
場所:室町三井ホール&カンファレンス、オンライン配信
プログラム:
開会挨拶 |
古藤 俊一(有人宇宙システム株式会社 代表取締役社長) |
来賓挨拶 |
坂本 規博(一般社団法人ニュースペース国際戦略研究所 (NGSL) 理事長) |
基調講演 Part 1 |
宇宙開発利用の新しい潮流と低軌道ビジネスに関する考察 |
中須賀 真一(国立大学法人東京大学 大学院工学系研究科 教授) |
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Expanding Access to Low-Earth Orbit |
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Michael López-Alegría(米Axiom Space社 Chief Astronaut) |
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パネルディスカッション |
地球低軌道ビジネスの現在と未来 – 日本企業が世界市場で戦うために – |
■モデレーター 佐藤 巨光(有人宇宙システム株式会社 ISS利用運用部 部長 兼 新事業開拓室 室長) ■パネラー 重枝 和冨(三井物産株式会社 モビリティ第二本部 輸送機械第四部 宇宙事業開発室 室長) 高田 敦(兼松株式会社 航空宇宙部) 堀口 真吾(株式会社DigitalBlast 代表取締役CEO) 芳澤 僚(Space BD株式会社 事業ユニット統括 ISSプラットフォーム事業) |
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基調講演 Part 2 |
Economic Innovation in the Final Frontier:Microgravity Research,Development,and Manufacturing |
Mike Gold(米Redwire Space社 Chief Growth Officer) |
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閉会挨拶 |
竹下 博(有人宇宙システム株式会社 取締役) |
室町三井ホール&カンファレンスへの来場者とオンライン配信合わせておよそ360名が参加し、宇宙ビジネスの最前線に関する講演やパネルディスカッションに熱心に耳を傾けていました。
基調講演
宇宙開発利用の新しい潮流と低軌道ビジネスに関する考察
基調講演は最初に中須賀 真一氏が登壇しました。中須賀氏は宇宙システム工学、小型衛星の設計・製作やロボティックスを専門に東京大学で教鞭を執っており、超小型衛星の設計に多数関わった他、政府の衛星に関する政策・立案にも参加した経歴があります。
中須賀氏は衛星の低価格化・ベンチャー主導の多様な低軌道ビジネス展開の例をいくつか挙げたうえで、宇宙開発利用で大きなゲームチェンジが起こっているとしました。
その一方で、低軌道ビジネスの中でもISSの利用は伸び悩んでいると指摘し、ISSを民間に運用委託したうえで、教育や技術開発の場として積極的な利用することなどの提言を行いました。
中須賀氏の講演より
まずは(ISSを)民間に利用のアイデアから運用まで全て任せて、利用拡大を徹底的に上げるべきだと思います。徹底的に試行錯誤をしないと本当のことがわからない。宇宙ステーションに利用がないのか、やり方が悪いから利用が拡大できないのか、どっちかが分からないです。これはしっかりと今の段階で区別しておかないと、先の戦略を立てられません。何がこの利用拡大の障害になっているのか、しっかり学ぶということが必要だと思います。
それから、これは商業利用ではありませんが、宇宙ステーションという稀有な機会を利用して国際貢献につながる活動を日本主導でやってはどうか。さっきの教育というのは一つの手段だと思いますけれども、それだけではなく、地球規模の課題の解決に向けたような活動を、日本がイニシアティブをとって世界を巻き込んでやっていくということを考えても良いのではないか。そういったことを徹底的にやった結果を以て、2030年以降の日本の宇宙ステーション戦略を考える必要があるのではないかと思います。
Expanding Access to Low-Earth Orbit
中須賀氏に続いて登壇したMichael López-Alegría氏は元NASAの宇宙飛行士で、現役時代には10回の宇宙遊泳を行っています。現在はAxiom Space の主任宇宙飛行士(Chief Astronaut)として活動し、2022年に実施された民間宇宙飛行Ax-1(Axiom Mission1)にも参加しました。
López-Alegría氏はまずISSの老朽化に触れ、その上で政府機関は次のフロンティアである月の探査に注力し、宇宙ステーションなどの低軌道のビジネスについては民間企業が中心となるべきと述べました。
その上でAxiom Spaceが計画している宇宙ステーションの計画や、Ax-1のミッションにて自ら取り組んだプロジェクト、さらに今年行われる予定のAx-2(Axiom Mission2)のミッションとその目的について紹介しました。
López-Alegría氏の講演より
歴史的に、通商が可能かどうか、危険または疑わしい場所に探査に行くことが、フロンティアを開拓する際の政府の役割です。
15世紀には、フェルナンドとイザベラがコロンブスの航海を依頼し、最終的にアメリカを発見しました。19 世紀のアメリカでは、第3代大統領のトーマス・ジェファーソンがルイスとクラークの探検隊に国を西方に拡大するよう依頼し、そして20世紀には政府機関が初めて宇宙飛行士と宇宙飛行士を地球低軌道に送り込みました。以来60年以上にわたって宇宙探査を行ってきています。
宇宙探査は日常的ではなく、簡単な事でもありませんが、それでも繰り返し実施が可能で、比較的安全な対策もできると私は主張したいのです。
したがって、今こそ政府機関が考えるべきなのは次のフロンティアである月の事です。私は日本がゲートウェイ計画などを介してアルテミスプログラムに参加したことで、民間企業が低軌道ビジネスを利用しやすくなったことを歓迎しています。
講演の合間にはBlue Origin社(アメリカ)、ICE Cubes(オランダ)をはじめ、世界中の宇宙企業からのビデオメッセージが流れ、経済産業副大臣兼内閣府副大臣であり、衆議院議員の中谷 真一氏のメッセージも黒田氏によって紹介されました。
Economic Innovation in the Final Frontier: Microgravity Research, Development, and Manufacturing
イベント後半はRedwire SpaceのChief Growth Officer、Michael(Mike) Gold氏の講演です。Gold氏はNASAで宇宙政策及びパートナーシップの副長官として、月や火星の探査、宇宙利用について規定したアルテミス合意や、月の軌道上に宇宙ステーションを建設するゲートウェイ計画を主導してきました。現在はRedwire SpaceのChief Growth Officer(最高事業成長責任者)として宇宙ビジネスの国際展開を行っています。
講演ではアルテミス計画で使用されたカメラや、若田宇宙飛行士が取り付けを行った新型太陽電池アレイといったRedwire Space社のプロダクト、3Dバイオプリンタの製造技術や微小重力に関する研究開発や、ISSに搭載されたRedwire Space社製のペイロードについて詳しい解説が行われました。
Gold氏の講演より
今ご覧いただいているのはRed Wireの研究所で培養した心臓の細胞で、微小重力下で人体をシミュレートしたものです。これを(ISSで)プリントを行って焼き上げ、地球へ送る事も可能です。これがもたらす経済的影響は個別化医療、再生医療、臓器移植にとって劇的なものです。
また、Gold氏は自身が関わったアルテミス合意で最初に署名した国の一つが日本である、としたうえで、現在勤めているRedwire Space社がまだ日本と関わりが無い事に触れ、将来的に日本の企業をRedwire Spaceのグループへ加えたいとの意欲を示しました。
宇宙ビジネスはより私たちの身近に
今回のサミットではISSの老朽化や民間宇宙企業の躍進を背景に、低軌道を利用した宇宙ビジネスが活発化してきていることや、宇宙ビジネスの将来的な可能性について知ることができる貴重な機会となりました。
低軌道ビジネスは近い将来、地上の商業活動ともつながっていくことが予想されます。宇宙ステーションへの宇宙旅行や衛星利用のみならず、例えば宇宙で作られた商品がスーパーに並ぶようになる……そんな未来はすぐそこに来ているのかもしれません。