2024年宇宙のニュース振り返り

2024年は日本初の月面着陸から始まり、新型ロケットの打ち上げ成功、海外では新型宇宙船の打ち上げなど、宇宙への新たな挑戦と躍進のニュースが多い一年となりました。
話題となった宇宙のニュースとともに2024年を振り返りましょう。

宇宙開発

1/20~8/23 SLIM、月面へのピンポイント着陸達成、3度の越夜に成功(日本)

SLIMは2023年9月7日に種子島宇宙センターより打ち上げが行われた月着陸実証機です。
探査機は打ち上げ後約3カ月かけて月へ到達、1月20日の0時20分ごろ月面の「神酒の海(月の表面中央左下に位置する盆地)」にあたる場所へ月面着陸を行いました。
SLIMの主な目的は以下のように設定されていました。

  • ミニマムサクセス:小型軽量な探査機による月面着陸を実施すること。
  • フルサクセス:精度100 m 以内の高精度着陸が達成されること。
  • エクストラサクセス:高精度着陸に関する技術データ伝送後も日没までの一定期間、月面における活動を継続し、将来の本格的な月惑星表面探査を見据え、月面で活動するミッションを実施すること。

着陸途中一部のエンジンが停止する、着陸時に想定と異なった向きになるなどのトラブルはありましたが、着陸地点は目標地点から東に55mと100m以内の地点に収まっており、フルサクセスまでの目標は達成できたと評価されています。
これまでの月面着陸は障害物が少ないポイントを探しながら行うなどで数km~数十km単位で誤差が生じていました。しかしSLIMは目指す場所への着陸を実証する事で必要な燃料を少なくできるほか、着陸可能な場所を増やす事でこれまで探索ができなかった地域の調査も視野に入れることが可能になります。

SLIMは低温環境に対応できる設計ではない他、給電を行う太陽光パネルが想定とは違う向きとなっていることから、当初越夜(約15日の夜の後、日の当たる次の15日に活動する)は難しいとされていましたが、その後、2月25日、3月27日、4月23日の3回に亘って通信を行い、月面の岩石の観測などが実施されました。
通信は8月までに計7回行われましたが、5月以降は応答が無く、運用復旧は見込めないと判断されたうえで8月23日に運用が終了しました。

2/8 PACE衛星打ち上げ(アメリカ)

PACE衛星打ち上げの様子-SpaceX

PACE衛星はNASAが開発した地球観測衛星で、2024年2月8日の日本時間15時33分にフロリダ州ケープカナベラル宇宙軍基地からスペースXの「ファルコン9」ロケットで打ち上げられました。
PACEは、「プランクトン」「エアロゾル」「雲」「海洋エコシステム」を観測するための衛星で、それぞれの頭文字(Plankton, Aerosol, Cloud, ocean Ecosystem)が由来です。衛星には植物プランクトンの分布や有害な藻類を調査する「Ocean Color Instrument(OCI)」と太陽光とエアロゾルの相互作用を調べる「Hyper-Angular Rainbow Polarimeter #2(HARP2)」と「Spectro-polarimeter for Planetary Exploration(SPEXone)」の3つの計器が搭載されています。
衛星の開発はNASAのゴダード宇宙飛行センターが主導し、海洋環境や大気の状態を精密に測定し、気候変動との関連を明らかにすることを目的としています。
観測データは、気候モデルの精度向上や環境変化の予測に大きく貢献すると期待されています。

4/10 デルタロケット最終機打ち上げ、デルタシリーズロケットの運用終了

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デルタIVヘビー打ち上げの様子 – United Launch Alliance 公式You Tube

およそ60年の歴史がある「デルタ」シリーズの最後のロケットの打ち上げが行われました。
デルタIVヘビー(Delta IV Heavy)は2004年から運用が開始された世界最大級の人工衛星打ち上げロケットで、およそ28トンのペイロードを低軌道に投入する事が可能です。2023年にはアルテミス計画の宇宙船・オリオンの打ち上げにも利用されました。
デルタロケットは1960年代に初打ち上げが行われて以降、改良を重ねながら23種のロケットが作られ、火星探査機「スピリット」「オポチュニティ」の打ち上げなど、アメリカの宇宙開発に貢献しました。
デルタIVヘビー最後の機体は4月10日、午前1時53分(日本時間)にフロリダ州ケープカナベラル宇宙軍基地から打ち上げられました。ペイロードはアメリカ国家偵察局(NRO)の偵察衛星です。
デルタシリーズの役割は次世代ロケットヴァルカン(Vulcan)に引き継がれます。

5/3~6/25 嫦娥6号 月の裏側の試料を採取、帰還まで達成(中国)

中国の無人探査機が世界で初めて月の裏側の試料採取に成功しました。
嫦娥(じょうが)6号は中国空間技術研究院(CAST)が開発を行った無人月面探査機です。2007年から実施されている中国の月探査計画「嫦娥計画」の一環のプロジェクトで、嫦娥3号で中国初の月面着陸、嫦娥5号で月の表側の試料採取を行っています。「嫦娥」の名前は中国の月の女神に由来しています。
嫦娥6号は2024年5月3日の日本時間18時27分に中国南部にある海南島の文昌航天発射場から打ち上げが行われました。
嫦娥6号は以下の機器で構成されます。

  • 着陸機(ランダー):月面に着陸
  • 上昇機(アセンダー):サンプルを打ち上げて軌道にのせる
  • 周回機(オービター):月の軌道を周回、軌道上のサンプルをドッキングする
  • 帰還機(リターナー):サンプルを地球に持ち帰る

また、嫦娥6号にはミニローバーの他、パキスタンのキューブサットや、スウェーデンのマイナスイオン検出装置など4つのペイロードが搭載されました。
打ち上げから約一か月後の6月1日に嫦娥6号は月の裏側の南極に着陸、ペイロードなどを放出したのちに試料採取を行い、サンプルリターンのカプセルに収納されました。
その後上昇期のサンプル打ち上げや周回機のドッキングを経て、サンプルを積んだ帰還機が6月25日に大気圏再突入、内モンゴル自治区に着陸して帰還しました。
収集された試料は1935.3グラムであると発表されています。

9/5 ヴェガロケット最終機打ち上げ(ヨーロッパ)


ヴェガロケット打ち上げの様子 – ESA公式You Tube

フランスの宇宙企業アリアンスペース(Arianespace)による小型ロケット「ヴェガ(Vega)」の最終打ち上げが行われました。
ヴェガロケットはイタリアが中心となって開発された全長約30メートル、直径約3メートルの4段式ロケットです。1から3段目には固体燃料を、4段目には精密な軌道投入を可能にする液体燃料エンジンを採用しています。2012年から22回の打ち上げを行っており、そのうち20回を成功させています。
ペイロードは陸域観測を行う光学衛星のSentinel-2で、山火事などの自然災害観測や森林監視、農業などにデータが活用される予定です。
ヴェガロケット退役後、小型ロケットによる打ち上げは新型のヴェガCロケットに引き継がれます。

10/13 スターシップ5回目の飛行試験、ブースター空中キャッチに成功(アメリカ)


スターシップ5回目の飛行試験の様子 -SpaceX公式サイト

SpaceXが開発する次世代ロケット、スターシップ(Starship)の5回目の飛行試験が実施されました。
スターシップは1段目の大型ロケットスーパーヘビー(Super Heavy)と2段目の大型宇宙船スターシップ(Starship)からなる全長121mの再利用型ロケットで、2023年から無人の飛行試験が実施されています。
今回の打ち上げでは発射台の巨大アーム(通称「箸」)によるブースターのキャッチの挑戦も行われました。現在スターシップのブースターは下部にある脚で着陸が行われていますが、戻ってきたブースターを空中でキャッチする事で貨物の搭載量などを増やす事ができるなどのメリットがあります。
打ち上げは2024年10月13日21時25分(日本時間)にアメリカ・テキサス州ボカチカにあるSpaceXの施設スターベース(Starbase)にて実施されました。
スターシップは発射約2分40秒後にブースターを分離、宇宙船は大気圏外まで飛行したのち再突入、発射から約1時間後にインド洋へと着水しました。
ブースターは打ち上げ約7分後にブーストバック燃焼と着陸噴射を経て、テキサス州ボカチカにある発射台へ帰還、アームによる空中キャッチも成功しました。

11/5 世界初の木造人工衛星打ち上げ(日本)

木造の人工衛星「LignoSat」の打ち上げが行われました。
「LignoSat」は、世界初となる木材をメイン素材に採用した人工衛星です。京都大学と住友林業が共同で開発を行いました。
従来の金属と異なり、木材は大気圏再突入時に完全燃焼してスペースデブリを残さない点や、電磁波を通す性質により衛星構造を簡素化でき、アルミよりも宇宙放射線に耐性を持つなどのメリットがあります。
実機には加工性と耐久性に優れたホオノキ材が採用されています。2022年に国際宇宙ステーション(ISS)で行われた木材宇宙曝露実験で、過酷な宇宙環境下でも木材が割れや反りを生じないことが確認された木材です。
さらに、「留形隠し蟻組接ぎ」という日本伝統の技法を活用し、木造部分はネジや接着剤を使用せずに組み立てが行われています。
11月5日にケネディ宇宙センターから打ち上げられ、ISSへ運搬されたのち12月9日に「きぼう」から放出が行われました。

11/19 SpaceX、20時間以内で3回の打ち上げを達成(アメリカ)

SpaceXのイーロン・マスク氏がX(旧ツイッター)にて、20時間以内に3回のファルコン9ロケット打ち上げを成功させたことを公表しました。
最初の打ち上げは11月18日午前7時28分(日本時間)に行われ、フロリダ州ケネディ宇宙センターからオーストラリアの通信衛星「Optus-X」を搭載しました。
次のミッションは同日午後2時53分(日本時間)にカリフォルニア州ヴァンデンバーグ宇宙軍基地から実施され、20基のスターリンク(Starlink)衛星を低軌道に投入しました。
最後のミッションは11月19日午前3時31分(日本時間)にフロリダ州ケープカナベラル宇宙軍基地から行われ、インド宇宙研究機関(ISRO)の通信衛星「GSAT-N2」を地球静止軌道へ向けて打ち上げました。
ロケットはいずれも再利用部分の第一段目のブースターが無人船に着陸、高頻度で打ち上げを成功させるSpaceXの技術力の高さを物語るニュースとなりました。

有人宇宙飛行

3/26若田光一宇宙飛行士JAXA退職、米宇宙企業CTOに(日本)


若田光一宇宙飛行士32年の軌跡 その先に「宇宙」という夢があるから – JAXA公式YouTube

2023年にISSに滞在し、船外活動も行った若田光一宇宙飛行士がJAXAを退職することを発表しました。
若田氏は宇宙飛行士となってから32年の間、5度の宇宙飛行や通算504日の宇宙滞在といった日本人最多記録を保持し、日本人初の国際宇宙ステーション(ISS)船長を務めるなどの実績を残しました。
退職に際し、若田宇宙飛行士は「32年間があっという間だった。各国の仲間と共に努力を重ねた時間に感謝している」と振り返っています。そして自身の経験を活かし、60歳になっても民間で新たな挑戦を続けて「生涯現役」を目指す姿勢を示しました。
4月にはアメリカの宇宙開発企業アクシオム・スペース(Axiom Space)に所属し、アジア太平洋地域の宇宙飛行士兼最高技術責任者として活動することが発表されています。

4/25 神舟18号打ち上げ(中国)

中国の宇宙ステーションの人員交代を行うための有人宇宙飛行が行われました。
中国は独自の宇宙開発を進めており、月面探査の「嫦娥計画」のほか、宇宙ステーション「天宮」を2022年に建設し、半年ごとに人員の入れ替えを行っています。
神舟18号は5回目となる「天宮」の人員交代を実施しました。
搭乗するメンバーは葉光復(よう・こうふ)氏、李聡(り・そう)氏と李光蘇(り・こうそ)氏の3名です。葉光復氏は神舟13号にも参加しており、2回目の宇宙飛行で船長を務めます。李聡氏と李光蘇氏の宇宙飛行は初となります。また、全員が1980年代以降生まれの若い世代であることも話題になりました。
神舟18号は4月25日の17時9分(日本時間)に打ち上げが行われ、2日後に宇宙ステーションとドッキングが行われました。
宇宙ステーションに滞在中は船外活動の他、ステーション内に持ち込まれたゼブラフィッシュで、微小重力が脊椎動物の成長や行動に及ぼす影響の研究や宇宙での燃焼実験などが行われました。
メンバーは約半年間天宮に滞在、10月30日に打ち上げられた神舟19号の搭乗メンバーと入れ替える形で11月4日に帰還しました。

5/20 ブルーオリジン、2年ぶりの有人宇宙飛行に成功(アメリカ)

アメリカの宇宙航空企業ブルーオリジン(Blue Origin)が2年ぶりとなる有人宇宙飛行を実施しました。
ブルーオリジンはアメリカ・ワシントン州の航空宇宙企業で、Amazonの創設者 ジェフ・ベゾスによる企業です。
ブルーオリジンの宇宙飛行は再利用可能なロケットニューシェパードを利用し、約100km付近でロケットからカプセルを放出、上空にいる数分間、カプセル内の乗客が無重力状態を楽しむ、サブオービタル飛行という形式です。
これまでに5回の有人飛行を成功させていましたが、6回目となる2022年9月の無人飛行時のトラブル以降、運行が休止されていました。
ニューシェパードは、テキサス州西部の発射場から打ち上げられ、乗組員6人を乗せて高度105.7kmの宇宙空間に到達。カプセルは約10分後に地球に帰還しました。

10/22米田さん・諏訪さんの宇宙飛行士認定(日本)

2023年に宇宙飛行士候補に選抜された諏訪理さんと米田あゆさんが、訓練を経て正式に宇宙飛行士に認定されました。
宇宙飛行士候補者はおよそ1年におよぶ訓練が行われます。基礎訓練では、座学や実技を通じて宇宙飛行士に必要な知識や技術を習得し、月や火星探査を見据えた特別なプログラムにも挑戦します。通常、基礎訓練はアメリカで行われることが多いですが今回は航空機曹純訓練など一部を除き、国内で実施されました。
2人の訓練は2024年10月に終了し、審査員会による審査を経て、正式な宇宙飛行士となりました。
10月23日の宇宙飛行士認定の記者会見で、米田さんは「宇宙開発は激動の時代にあり、アルテミス計画や火星探査に向けて活躍していきたい」と述べるとともに、「若い世代に宇宙の魅力を伝え、何かに一生懸命取り組む楽しさを広めたい」と抱負を語りました。
諏訪さんは「国際宇宙ステーションの時代から探査の時代へと移行する中で、変化する環境に適応し、科学的成果を地球へ届けたい」と述べ、「強いチームの一員として貢献することを目指す」と決意を示しました。

2024年は新たな可能性が広がった年に

月面探査や、新型のロケットや衛星、宇宙飛行士の新しいキャリアなど、大きな宇宙のニュースがたびたび話題になった2024年は、多岐にわたる分野で新たな可能性が開花した年となりました。
2024年の出来事が、2025年以降のさらに大きな挑戦や新たな展開に繋がっていく予感を感じさせます。

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国際宇宙ステーション「きぼう」を運用している有人宇宙システム(JAMSS)が運営する、宇宙業界の盛り上がりをお届けする情報発信メディアです。「最新ニュース」「宇宙ビジネス」「宇宙利用」など様々な視点から、皆様へ宇宙の魅力をお届けします。
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